「はやてー…腹減ったー」
雨が降る静かなお昼時、ヴィータはぼんやりと窓辺を見つめていたはやてに、そう言った。
昼時であるからこその言葉だが、いかんせん、材料が切れてしまっている。雨が降っているため、シャマルが買出しに出かけている。
けれど、人数が多い分時間がかかるのだろう。シャマルはまだ帰ってこない。
「困ったなー。まだシャマルも戻ってけーへんし…」
はやてはヴィータの意見に少し困った顔を見せる。材料があれば、すぐに何かを作ってやれるのだが、材料がないのでどうしようもない。
「ううー…」
材料がないのはヴィータにだってわかっている。しかし、腹の音が鳴るのは彼女にだって止めようが無い。
「あっ、そうや…!」
はやては何かに気付き、隣に座っていたシグナムに車椅子に乗せてもらう。
彼女は車椅子を動かし、キッチンへと移動する。
冷蔵庫を開き、その小さな手で赤い果実を取った。
「ヴィータ、他にないからりんごでええか?」
はやての後を追ってきたヴィータに、彼女は微笑みながら差し出した。
ヴィータは果実特有の甘い匂いにコクリと頷く。
「はやて!ありがとう!」
「お礼なんてええよ。今切るからなぁ」
彼女は今度はシンクまで移動し、包丁を取り出した。
やはり隣に立つヴィータははやてがりんごを切るのは、ただただ楽しそうに見ていた。
包丁の刃が円を描き、形を作っていく。

ヴィータはりんごの形を見て、とても可愛らしい笑顔を見せた。
「はやて!これ!」
「はい、うさぎさん。好きやろ?」
「うん!」
はやてにりんごが乗った皿を差し出され、ヴィータは瞳をキラキラ輝かせた。
彼女はウサギが好きで、今もウサギのぬいぐるみを離さない。
「わー…」
嬉しそうなのがわかる。
しかし、何分も眺めつづけるのはどうだろう。
「ヴィータ?」
はやてが話し掛けても、気付く様子はない。
彼女はずっと見つづける。
そんな状況を見かねたシグナムが近づいてくる。

本音はどうだかはわからないが。

「シグナム!?」
「わー…ッ、何すんだよ!!シグナム!!」
シグナムは嬉しそうにヴィータが見つめるりんごを、彼女から無言で奪い取り、自らの口の中に放り込んだ。
はやては驚き、ヴィータは当然だが怒り出した。
「主はやてに切っていただいたものを無駄にする気か?」
「何だよ!!ちゃんと食べるつもりだったんだぞ!!…それを!」
確かに、りんごは時間を置くと変色してしまう。ヴィータのりんごはもう変色しかけていた。
それをシグナムは躊躇いもなく食べた。ヴィータは悔しいやらむかつくやらで、キレかかってしまっている。
はやては取っ組み合いの喧嘩に発展しかけかねない、と心配する。
「待ってぇ!また剥いてあげるから、お願いや…喧嘩せえへんでな?」
はやてに言われ、ふたりの動きはピタリと止まった。
ニッコリ微笑まれ、小首を傾げる。
「主がそう言うならば…」
「…わかったよ、また…」
「うん、またうさぎさんにしてあげるからなー」
主の言う事だから、と言うよりは、はやての言う事だから、と言う理由で、ふたりは納まる。
そんな事はやては知るわけもなく、再び包丁に手をかける。


これでシャマルが帰ってきたら、仲良く昼食が取れると思ったが、現実はそうは行かなかった。







「ただいまー!…あら?はやてちゃん、シグナムとヴィータちゃんは?」
「あ、シャマル…ふたりとも外に出て喧嘩してしまってる…」
「え…?」


ふたりの心を知らぬは本人ばかりなり。



END

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索