―彼女は趣味が悪いな、とあの時確かにそう思った…。



青い。
青い。
全身青けりゃ、中身も青い。
こちらを警戒心丸出しで睨みつけてくるし、自分の二つ名をわざわざ言ってみたり、正直馬鹿だと思った。
子供じみて、人の話を聞かない、言う事聞かない。
初対面の人間にですらもろバレの解放軍リーダーであるオデッサへの、男としての恋心。
スマートじゃない。勿論、体型の事ではなく、行動の事。
何でああまでも言われなければ退かないのか、問いただしたくなるくらい。
自分がオデッサの立場なら、真っ先に追い出すであろう彼を、どうやら彼女も想っているらしい。どうしてだろう。
彼女ほどの女性が何故、あんな身も心も青い男を。

不思議に思う心を止められず、オデッサ自身に尋ねる自分も、十分子供で、あの青い男を笑えないくらい子供であると感じ、少々苛立たしい。
けれど、この胸に引っかかる感情は止められはしない。

「オデッサさんは、何であんな男が好きなんですか?」
憶測をそのままに。
共に歩んで欲しいと言う彼女に問い掛けた。
窓辺に立ち、去り行く彼女にただ一言。
不意に浮かんで消えないこの感情を、そのままに。
オデッサは一瞬、目を丸くし、すぐに我に返り、指先に顎を乗せ考え込む。
その時間は長い様で、短くて。
短い様で、長くて。
時に眉を寄せ、時に思い出し笑いを、時に。
その表情はコロコロ変わり、瞳は揺れる。
あの青いだけの男、ただひとりの為に、こんなに表情豊かになる彼女に心が揺らめく。

オデッサの表情に変化が収まり、彼女は笑ってこちらを向く。
理想を語った唇から、男の話が飛び出るなど、自分でふっかけておきながら、何て非情。
後悔が胸を彩り、感情は入れ替わる。
何て、自分勝手。
けれど、彼女は知ってか知らずか。
「さあ…どこでしょうね?」
からかう様な口調でそう言った。
「はあ!?」
思わず声が裏返る。
元仕官である自分が、何て事だ。今は追われる身だとて、こんな。
妙に悔しくて、膨れると、オデッサはクスッと笑い、こちらを見る。
「やっぱり驚いた?」
どうやら、彼女の予想通りだったらしい。
やはり悔しくて、彼女から視線をそらすと、オデッサは再び笑い、またこちらを。
「驚きました…」
ポツリとそう呟くと、オデッサはこちらの予想外な言葉を吐き連ねる。

「でしょうね?私もそうよ?」
「はあ!?」
再び声が裏返ってしまう。
私も、とは。
自分の気持ちが何故わからないのだろう。
聡明な彼女なのに、そんな事わからないなんて。
彼女は幻想を壊していく。それでも残酷に微笑み。
また、凛とした姿をさらけ出す。
不思議な女性で、目が回りそうだ。
「正直私もわからないの…説明しようと思っても、口には出せない…」
でも、彼女の言葉に吸い寄せられる。

―ただ好きなのよ…。

いつ戦場で死ぬかなんて、誰にもわからない。
気持ちはただ真っ直ぐに。でも、感情に理由をつけようだなんて思わない。
好きになった理由は、きっと記憶の中にあって、言葉には出来ない。
記憶は誰にも渡さない。自分だけのもの。

―それを独占欲と言うのかしらね…。

彼女の言葉に、自分が少し勘違いしていた事に気付く。
彼女はあまりにも理想を語る様な表情をするから、気持ちが溢れてこちらにまでやってくる。
オデッサはただの女ではない。男の為に役割を捨てる様な女ではない。
両方掴む女だ。
役割も好いた男も、どこまでも誠実に、どこまでも強く、どこまでもどこまでも。

わかっていないのは彼女ではなくこちらだ。
あの青が訳もなく胸につく理由も、こんなに胸がざわめく理由さえわからない自分だ。

「どうしたの?ルナ…明日も早いわよ?」
「ああ…」
彼女は聞かない。何故、こんな事を聞いたのか、を。



ただ黙って、明日を見る。








血が赤くて、青は見えない。


END

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