―…風が吹いた。





「王子…!王子…!?」

芯の強い声。
黒い髪が赤い髪留めと一緒に風に吹かれる。
少女は自身が仕えておる主を探し、青く茂った草むらを走る。

踏まれた雑草は、まだ元気で。







「王子!」
「……」
「リムスレーア様から手紙が届きましたよ、楽しみになさっていたのではないのですか?」
返事は無い。
「王子?」
「……うん」
その瞳は冷たく、主を刺す。
曇り空の瞳が開かれ、黒髪の少女を映した。

彼とは対照的な爽天の瞳が、曇り空によって曇っていく。


彼女はそれに気付かない。
「王子…起きていらっしゃったのなら、すぐに返事していただきたいと…」
「わかったよ、リオン…」
赤い装束が翻る。

雲は暗く、爽天を隠す。




―まるで緑に広がる深紅が、一瞬、血の様見えた。



「王子…?」







「…嫌な予感がする……」


そう一言、呟いただけ。



風が、ほんの少し強く凪いだだけ。







END

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