―時折、王子が怖くなる…。













「王子、起きられました…か…」

朝になって、今日がまた始まる。
リオンはいつまでたっても起きない寝坊すけ王子を起こしに、彼の部屋へと入っていった。
「王子?」
女王騎士見習いが王子の私室に何の了承もなしに入るなんて、本来なら無礼も甚だしいが、今日は彼の母親、ファレナ女王国女王の前に行かなければならない。

だから、一刻も早く起きてもらわなければならない。

「王子!起きてください!陛下がお待ちですよ?」

早く起きて欲しくて、珍しく彼に強気で出る。

起きて欲しい。
一刻も早く。


しかし、いつものならほんの数分で起きてくれる彼は、今日に限ってまだ夢の中だ。


「王子…」



「王子…」






「王子…起きてください…」

何度も何度も呼んでも起きない。


「王子…」

まるで死んでしまったかのような、深い、深い眠り。


こんこんと、しんしんと。




朝日が眩しい室内で、白銀の彼の髪が光る。

まるで、自然の様に。







―ヒトガシゼンニカエルトキヲナンドモミタ。





―ソレハヒトガシニ、ノザラシニナッタトコロダッタ。







光る彼の髪とは対照的な闇に心が喰われそうになる。
心臓が食いつかれて、心が凍りそうになる。

怖い。

昔が、過去が怖い。
こんな事で怖がってどうするのだろう。

自分は彼を、守らなければいけない。

彼を、女王のもとへ連れて行かなければいけないのに、こんなに足がすくんでは。


時折、彼が怖くなる。
過去が蘇ってきて、でも彼を過去に食われたくなくて、何度も何度も振り払う。

この間はどうやって振り切ったのかわからない。
どうしてこんなに怖い気持ちから逃れられたのかわからない。

瞳を見開き、立ちすくむ。
声も出ない。届かない。







「リオン…?」


「王子…?」



「どうして…泣いてるんだ…?」

彼の手がリオンの頬を伝う涙を拭い取る。
優しい声と共に、リオンに触れる。

暖かい。
死んだ人間にはない暖かさだ。


ふと、気付く。
心臓を鷲づかみにした冷たさは何処かに消え、彼がくれた暖かさだけが心を包み込む。

「誰かに…いじめられたのか…?」

「いいえ…!」


首を横に振って否定する。


何かを察してくれたのか彼はそれ以上、その事について尋ねなかった。

















その代わり。


「今…時間は…?」

「あっ!」






時間が押している事に気付きリオンは青ざめる。
急いで、リインを女王の待っている謁見の間に連れて行く。

起きられなかった理由を問うてみたら、カイルと夜遅くまで話し込んでいたらしい。

少し怒りたくなったが、今はそれどころじゃない。



彼をいつも通り守りきるだけだ。












END

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