―今、話し掛けられたら困る…。

そう思った時に、人は話し掛けてくるものである。

「クロノくん、どうしたの?青い顔…じゃない!!顔真っ赤ぁ!風邪でもひいた!?」

「いや…何でもない…」

「何でもなくないよ!」

風邪ではない。
自分の目の前にいる人物が年頃の女性である事に気付いただけだった。
エイミィは二日酔いの状態であるクロノを気遣ってくれた。だが、今、彼女に近づかれると頭ではなく、胸のあたりが痛くなってくる。

気付かれたくなくて。

「放っておいてくれ…!!」


―心にもない事を口にした。












どうしてこんな事になってしまったのかわからなかった。
妹の心配をして薄暗い気持ちになっていた自分を馬鹿騒ぎで慰めてくれた士官学校時代からの友人、友人のつもりだった、確かに友人だった。
そんな彼女に事故とはいえ、あんな事を。

本人はすっかり覚えていないようだったが、こちらは全部覚えている。
だから、気まずい。
気まずくて、でも、彼女は近づいてきて。
胸が苦しかった。

どうして自分がこんな気持ちになるのかも、どうして自分が彼女に対する感情を疑問視するのかも、どうして事実を彼女に伝える事も出来ないのだろう。
素直に謝罪してしまえば良いと言うのに、その先に何があるのかと考えて、こんなにも悩んでしまうのだろう。

ただの友人なら、叩かれるなり、笑って済まされるなり、どうと言った事はない。
そうである筈なのに、どうしても悩んでしまう。
何に悩んでいるのかわからないまま。

時間だけが過ぎて、彼女に暗い顔をさせてしまう。

こんな効率の悪い、無駄な時間を過ごしてしまう。

昨日よりは仕事は捗っている。それが余計に、自分を悩ませているのかもしれない。






「クロノくん」
俯き、考え込んでいる自分を呼ぶ声がして、一瞬、肩を上下に震わせて、振り返る。
心の何処かで期待した面影はなく、まだ幼い、妹の親友が瞳に映った。

「どうしたの?こんな所で…」

こんな所。
なのはに言われて初めて自分が何処で悩み込んでいたのか気付く。
アースラの中でもなく、談話室でもなく、ましてや自宅でもなく、管理局の通路の途中で考え込んでいる彼を、なのはに限らず、誰でも不思議がるだろう。
アースラに何かあったのではないかと心配に思う人間が出ても良いくらいに。

どうしても、ひとりでは答えは出ない。
ならば、ふたりならどうだろう。

「なのは…」

「ん?やっぱり何かあったの?」

「話を聞いてくれないか…」












続く。

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