―聖なる夜の不思議な出来事。

―運命の迷宮に迷い込んだ人間がまたひとり。





誰かに呼ばれた気がして訪れた教会。
冷たい空気に触れていた頬はすっかり冷えていた。
息が白くなり、視界を遮る。
自分の息に遮られながらも、綺麗なステンドグラスに目を奪われていた望美は、視線を下ろした途端、表情を歪めた。



「泰…衡、さん?」


「神子…殿…?」


いる筈もない人物が、そこにはいた。
和議を結ぶ事なく、源氏に終われたの中でのみ出会うヒト。
和議を結び、茶吉尼天を追って現代に戻って来たこの運命で出会う筈もないヒト。

奥州藤原氏を納める人物の息子。


運命を変えられなかったヒト。



そのヒトがどうしてここにいるのだろう。

「神子殿…ここは…?」
先に口火を切ったのは彼の方だった。
訳がわからないだろう。望美にだって理由が見えなかった。


「泰衡さん…あの…ここは…っ」
「本当に…神子殿…なのか?」

動揺する望美に一歩近付き、その存在を確かめる様に、頬に触れた。
その手は、望美の頬と同じく冷たくなっていた。
「泰衡さん!こんなに手が冷たくなってっ!いつから、ここにいたんですか!?」
自分の頬に触れる泰衡の手を掴み、その温度を確かめる。
まるで死んだヒトの様でゾッとした。

「確かに…神子殿、だな…」
「何ですか!その笑い方…は、っ!?」
泰衡の含み笑いに、望美は腹を立てた。
だが、すぐに身体を抱き寄せられ、言葉に詰まる。
「温かい……」

そう呟かれた彼の声は、まるで子供の様で。望美は静かに目を閉じた。













「なーんて、展開になっても良いと思わない!?将臣くん!」
「つーか、泰衡って誰だよ?」
今にも食べカスを飛ばしそうな勢いで喋る望美に、将臣は手にしていた割り箸を彼女に向け、ツッコんだ。
ここはクリスマスの春日邸。弟の美味しい料理ではなく、チープな食べ物を食したくなった将臣は、買って知ったる春日家のキッチンでカップラーメンを食べていた。それを一緒に食べ始めた望美は、唐突な事を言い出した。
平泉の運命を辿っていない将臣に、泰衡が誰であるかなんてものを語っても意味がないので、望美は敢えて将臣の幼馴染みとして当然に備わり、また、繰り出されたツッコミを無視した。
「将臣くん!今度弟達に言っておいてね!!ついでに泰衡さんを連れて来てね、って!!」

「だから、泰衡って誰だっつーの。てゆーか、弟“達”って何だ?弟“達”って!!」

「知盛と重衡さん。」

「ちょっと待て!知盛は和議ン時、どっかで見掛けたかもしんねえけど!重衡を何でお前が知ってんだ!?」

「白龍の神子の神秘☆」

「うさんくせえな!オイ!!」




ツッコミ所が変わって焦る将臣を尻目に、望美はカップラーメンの汁を飲み干した。
今日も運命の迷宮に挑む栄養とするために。


END

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