それはけんぜんなほんのう?(SBSSS:パンシヴァ)
2007年3月2日 SS――全てがユダに繋がるのが腹立たしい…。
「甘いものが食べたいんですが…ねえ、シヴァ?」
「な、何だよ急に…!!」
急な訪問、急な問いかけに、パンドラはシヴァを戸惑わせる。
あまりにも急で断りきれずに家の中に入れた。よりにもよって、家の置くまで進んでいったパンドラはシヴァの寝台に腰をかけてそう彼に問いかけた。
その声はあまりにも蠱惑的で、ひどく心臓に悪い。心臓が跳ねて顔が赤くなったことが自分でもわかる。
パンドラの言葉に裏なんてなくて、ただ言葉通りの意味だとわかっている。わざと誤解させるように言っていることも、全部。
けれど、妙に耳に甘く、わかっていても鼓動は早まった。
こんな状況をゼウスに知れたらきっと恐ろしいことになる。シヴァだってわかっているのに誤解してしまいそうになるのに、端から見たらこの状況はどう映るのか。
「何で、僕がお前のために甘いものを出さなきゃいけないのさ!大体、今お菓子も果物もみんな切らしちゃってるよ!」
馬鹿正直に答えてしまう自身が恨めしい。
無視してしまえば良いものを、構ってくれるのが内心嬉しくて答えてしまう。そんなこと、絶対に言えやしないが。
「でも、材料くらい、あるのでしょう?」
「そりゃ…ご飯に使う用に、小麦粉もあるし、卵もバターも…あと、生クリームもあったから……って、僕に今から作れとでも言うのかよ!!」
「察しが良いですね、それくらいの勢いで空気も読んでいきましょうね」
「読めてるよぉっ!!…っじゃ、なくて!!」
酷い言われようだ。ただ何となく、このままパンドラに良いように使われる予感がしただけだと言うのに。
今から作れと言うのはあまりにも酷ではないのだろうか。酷いことを言ったパンドラのために作ってやるのも癪だ。
「私は、ほんの少しお裾分けしてもらいたいだけですよ……こう、思えば良いじゃないですか、『ユダにあげるお菓子を心優しい自分はパンドラに少し分けてやった』。そう思えば、作れなくもないでしょう?」
「少しでもお前にやるくらいなら全部自分で食べる」
「あーん、つれないですね」
「…っ!?」
今、聞いてはいけない言葉を聞いた気がする。――が、そんな事は今はどうだって良い。
ユダに作ってあげるといっても、理由がない。何か行事があるわけでもない。シヴァとしてはいつだって、毎日だってユダに手料理を食べさせたい所だが、如何せんユダには近づけない日々は続くし、図々しく料理を押し付けるわけにもいかない。
作った所で無意味だ。
「私がユダ殿にお渡ししましょうか…?」
「どうやって!?」
突っぱねるつもりだったパンドラの言葉を思わず聞き返した。ユダに食べてもらいたいという本音がそうさせた。
パンドラが言うには、ゼウスは近々神殿に六聖獣を呼びつけると言う。また彼らを労うのだろう。その時に、自分がユダに出せば、シヴァの作ったものがユダの口に入る。
これなら無駄にならない。自分に与えるのは些細な報酬だと、パンドラが囁く。
その時点で、もうシヴァの頭の中はユダのことで一杯だった。所詮、シヴァのパンドラへの警戒心はそんなもの。
嬉々として台所に向かうシヴァを、パンドラはその場で見送った。
「ねえ、パンドラ…」
「なんだい…パール…」
家中に広がる甘いにおいに鼻をくすぐられながら、シヴァの寝台に腰を下ろしたままぼんやりしているパンドラに、彼の肩に乗ったパールは話し掛けた。
「さっきの話は本当かい?」
「…どっちのことを聞いているんだ?」
「どっちもだよ…」
パールが言いたいのは、本当に甘いものが欲しいだけなのか、本当にゼウスは六聖獣を呼び出すのか。
答えはどちらともYesだった。
「甘いものが欲しいのは…ただ、疲れているから欲しくなっているだけで……ゼウス様が呼び出したのも本当…ただ、本当にそれで六聖獣が神殿に集まるかどうかは私の知ったことではない……大方、彼は来ないだろうけど…」
パンドラの答えにパールは溜息を吐く。結局、シヴァは相変わらずパンドラに良いように利用される運命か。
シヴァがどうなろうとパールにとっては知ったことではなかったが、パンドラがわざわざこんなことをするなんて少し信じられなかった。――心の中は何となく見えるけれど、あえてこちらも言及しない。
「うわああっ!!」
そろそろ出来上がる時間かと思いパンドラが立ち上がると、シヴァの驚く声が耳に届く。その声を聞いた途端、パンドラの顔つきが変わる。
肩に乗せたパールをシヴァの寝台に置いて、走り出した。
「…心配はするのか…」
すぐにドアが閉まり、姿の見えなくなったパンドラへと呟く。――正直に、どんな言葉より雄弁な、気持ちを伝える術があれば良いのに。
「どうしました?シ…!?」
勢いよく台所に飛び込んだパンドラの目に、シヴァのとんでもない姿が映った。
少し涙目になった目元から流れる頬の曲線は赤く染まり、その頬を伝い零れ落ちる白い液固体、髪にまでかかり、手の平にこびりついたソレを赤い舌で舐める姿は正に『アレ』。
―――例え真実は、デコレーション用のクリームがゆるかった挙句、うっかり零れただけだとしても、真実を知らないパンドラの目にはそう映った。
「…あー…失敗しちゃったぁ…」
少し眉を寄せ、指先についた白い液固体を舐める様は『ソレ』にしか見えず、パンドラは震えた。――理性と言うものは、かくも儚い。
「あ、パンドラ…って…うわっ、ちょっと…何で腕引っ張って…!!?」
思わずパンドラの手がシヴァの腕を掴む。シヴァがパンドラの存在に気付いた時にはもう遅かった。
パンドラはそのまま寝室へと足を向け、半ばシヴァを引きずるように連れていった。シヴァは何が何だかわからず混乱するばかりで、ロクに抵抗も出来やしない。
「パンドラ、シヴァはどうし…えええー!?」
待っていたパールが有無を言わせてもらえないまま寝室の外に放り出される。彼の痛みは自分に跳ね返ってくるので優しくだが、その扱いはぞんざいなものだった。
ほぼ同時に、シヴァの身体が寝台に放り出される。更には、圧し掛かられ、シヴァはどうして良いかわからなかった。
「ちょっ…パンドラ…っ、何を…!?」
「どうして…あなたはそう…っ」
焦るような声がシヴァの耳に届くと同時に、頬を舐められる。ビクリと身体を震わせ、逃げようとすれば腕を掴まれる。
「甘い…」
――菓子よりもこちらが良い…。
そう宣言するわけでもなく、けれど実行に移したパンドラが何をしたのかは、シヴァとドアの前で聞きたくもないものを聞かされたパールだけが知っていた。
End?
「甘いものが食べたいんですが…ねえ、シヴァ?」
「な、何だよ急に…!!」
急な訪問、急な問いかけに、パンドラはシヴァを戸惑わせる。
あまりにも急で断りきれずに家の中に入れた。よりにもよって、家の置くまで進んでいったパンドラはシヴァの寝台に腰をかけてそう彼に問いかけた。
その声はあまりにも蠱惑的で、ひどく心臓に悪い。心臓が跳ねて顔が赤くなったことが自分でもわかる。
パンドラの言葉に裏なんてなくて、ただ言葉通りの意味だとわかっている。わざと誤解させるように言っていることも、全部。
けれど、妙に耳に甘く、わかっていても鼓動は早まった。
こんな状況をゼウスに知れたらきっと恐ろしいことになる。シヴァだってわかっているのに誤解してしまいそうになるのに、端から見たらこの状況はどう映るのか。
「何で、僕がお前のために甘いものを出さなきゃいけないのさ!大体、今お菓子も果物もみんな切らしちゃってるよ!」
馬鹿正直に答えてしまう自身が恨めしい。
無視してしまえば良いものを、構ってくれるのが内心嬉しくて答えてしまう。そんなこと、絶対に言えやしないが。
「でも、材料くらい、あるのでしょう?」
「そりゃ…ご飯に使う用に、小麦粉もあるし、卵もバターも…あと、生クリームもあったから……って、僕に今から作れとでも言うのかよ!!」
「察しが良いですね、それくらいの勢いで空気も読んでいきましょうね」
「読めてるよぉっ!!…っじゃ、なくて!!」
酷い言われようだ。ただ何となく、このままパンドラに良いように使われる予感がしただけだと言うのに。
今から作れと言うのはあまりにも酷ではないのだろうか。酷いことを言ったパンドラのために作ってやるのも癪だ。
「私は、ほんの少しお裾分けしてもらいたいだけですよ……こう、思えば良いじゃないですか、『ユダにあげるお菓子を心優しい自分はパンドラに少し分けてやった』。そう思えば、作れなくもないでしょう?」
「少しでもお前にやるくらいなら全部自分で食べる」
「あーん、つれないですね」
「…っ!?」
今、聞いてはいけない言葉を聞いた気がする。――が、そんな事は今はどうだって良い。
ユダに作ってあげるといっても、理由がない。何か行事があるわけでもない。シヴァとしてはいつだって、毎日だってユダに手料理を食べさせたい所だが、如何せんユダには近づけない日々は続くし、図々しく料理を押し付けるわけにもいかない。
作った所で無意味だ。
「私がユダ殿にお渡ししましょうか…?」
「どうやって!?」
突っぱねるつもりだったパンドラの言葉を思わず聞き返した。ユダに食べてもらいたいという本音がそうさせた。
パンドラが言うには、ゼウスは近々神殿に六聖獣を呼びつけると言う。また彼らを労うのだろう。その時に、自分がユダに出せば、シヴァの作ったものがユダの口に入る。
これなら無駄にならない。自分に与えるのは些細な報酬だと、パンドラが囁く。
その時点で、もうシヴァの頭の中はユダのことで一杯だった。所詮、シヴァのパンドラへの警戒心はそんなもの。
嬉々として台所に向かうシヴァを、パンドラはその場で見送った。
「ねえ、パンドラ…」
「なんだい…パール…」
家中に広がる甘いにおいに鼻をくすぐられながら、シヴァの寝台に腰を下ろしたままぼんやりしているパンドラに、彼の肩に乗ったパールは話し掛けた。
「さっきの話は本当かい?」
「…どっちのことを聞いているんだ?」
「どっちもだよ…」
パールが言いたいのは、本当に甘いものが欲しいだけなのか、本当にゼウスは六聖獣を呼び出すのか。
答えはどちらともYesだった。
「甘いものが欲しいのは…ただ、疲れているから欲しくなっているだけで……ゼウス様が呼び出したのも本当…ただ、本当にそれで六聖獣が神殿に集まるかどうかは私の知ったことではない……大方、彼は来ないだろうけど…」
パンドラの答えにパールは溜息を吐く。結局、シヴァは相変わらずパンドラに良いように利用される運命か。
シヴァがどうなろうとパールにとっては知ったことではなかったが、パンドラがわざわざこんなことをするなんて少し信じられなかった。――心の中は何となく見えるけれど、あえてこちらも言及しない。
「うわああっ!!」
そろそろ出来上がる時間かと思いパンドラが立ち上がると、シヴァの驚く声が耳に届く。その声を聞いた途端、パンドラの顔つきが変わる。
肩に乗せたパールをシヴァの寝台に置いて、走り出した。
「…心配はするのか…」
すぐにドアが閉まり、姿の見えなくなったパンドラへと呟く。――正直に、どんな言葉より雄弁な、気持ちを伝える術があれば良いのに。
「どうしました?シ…!?」
勢いよく台所に飛び込んだパンドラの目に、シヴァのとんでもない姿が映った。
少し涙目になった目元から流れる頬の曲線は赤く染まり、その頬を伝い零れ落ちる白い液固体、髪にまでかかり、手の平にこびりついたソレを赤い舌で舐める姿は正に『アレ』。
―――例え真実は、デコレーション用のクリームがゆるかった挙句、うっかり零れただけだとしても、真実を知らないパンドラの目にはそう映った。
「…あー…失敗しちゃったぁ…」
少し眉を寄せ、指先についた白い液固体を舐める様は『ソレ』にしか見えず、パンドラは震えた。――理性と言うものは、かくも儚い。
「あ、パンドラ…って…うわっ、ちょっと…何で腕引っ張って…!!?」
思わずパンドラの手がシヴァの腕を掴む。シヴァがパンドラの存在に気付いた時にはもう遅かった。
パンドラはそのまま寝室へと足を向け、半ばシヴァを引きずるように連れていった。シヴァは何が何だかわからず混乱するばかりで、ロクに抵抗も出来やしない。
「パンドラ、シヴァはどうし…えええー!?」
待っていたパールが有無を言わせてもらえないまま寝室の外に放り出される。彼の痛みは自分に跳ね返ってくるので優しくだが、その扱いはぞんざいなものだった。
ほぼ同時に、シヴァの身体が寝台に放り出される。更には、圧し掛かられ、シヴァはどうして良いかわからなかった。
「ちょっ…パンドラ…っ、何を…!?」
「どうして…あなたはそう…っ」
焦るような声がシヴァの耳に届くと同時に、頬を舐められる。ビクリと身体を震わせ、逃げようとすれば腕を掴まれる。
「甘い…」
――菓子よりもこちらが良い…。
そう宣言するわけでもなく、けれど実行に移したパンドラが何をしたのかは、シヴァとドアの前で聞きたくもないものを聞かされたパールだけが知っていた。
End?
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