ある所に『赤頭巾』と呼ばれる占いの得意な少年がいました。
本名はタケルというのですが、物語の便宜上『赤頭巾』。
彼は母親と一緒に静かに暮らしていました。村の人々から探し物を占って欲しいと頼まれたり、豊穣の祈りを頼まれたりとなかなか忙しい日々とも言えますが、穏やかに毎日を過ごしていました。

そんなある日、『赤頭巾』タケルは村人から頼まれ事をされました。

それは森の中に住む『おばあさん』に、届け物をしてほしいというものでした。

最近、狼が出るから森へと入れないと主張する者が続出し、届けるに届けられないと言います。
『赤頭巾』タケルは、勇敢で心優しい少年であったため、この願いを引き受けてしまいました。



「今日も良い天気だ」
そう言って、『赤頭巾』タケルは前に進みます。それはもう、村人が怖がる森の道をサクサクと。
見ているものが不安になるくらいにあっさり進むものだから、見ている方は気が気ではありません。

見ている方は?


「この森を進むとは…何者だ?」

「なんだ…?」
急にそう問われ、『赤頭巾』タケルは声のする背後を振り返りました。
そこにいたのは、金色の狼でした。見事な毛並みは日の光を浴びてキラキラ光って綺麗です。

「金色の狼…」
「答えろ…!」
思わず見とれてしまった『赤頭巾』タケルは狼の問いに答える間もなく組み敷かれてしまいました。
普通なら恐怖に震えたり、叫び上がったりするでしょうが、『赤頭巾』タケルは全く動じる様子はありませんでした。
狼は彼の様子を不思議に思います。

「殺されるかもしれないのに随分と余裕だな」
「お前は、いつもこんな事をしているのか?」
「そうだ」

『赤頭巾』タケルは自分を殺そうとしている金色の狼をジッと見つめました。
殺気を感じるけれど、『赤頭巾』タケルにはこの金色の狼が人を食い殺してしまうような恐ろしい存在には見えませんでした。

「どうした?恐怖で声も出ないのか?」
「いいや。俺はお前達の住家に踏み入ったんだ。食い殺されても、それは自然の摂理だ…母さんが悲しむのが辛いが、受け入れよう…」

もう1度、狼を見つめます。狼もまた、今までの人とは違う答えを出した『赤頭巾』タケルを見つめました。

(森を荒らすものでは、ないのか…)

狼は別に人を食い殺すつもりはないのです。ただ、人々が森を荒らすのでこうやって驚かせて追い返していただけでした。
『赤頭巾』タケルは森を荒らすの人間ではないと感じ取った金色の狼は、彼の上から退きました。
自分の見当が外れていたのなら大人しく食べられようとしていた『赤頭巾』タケルは驚きます。

「良いのか?」
「行け」

そう言うと、金色の狼はもう後ろを向いていました。

「………ぁ…」

このままでは狼は行ってしまう。
そう思ったら、身体が勝手に動きます。
『赤頭巾』タケルは金色の狼の尻尾をムンズリと掴み、彼の進行を阻みました。

「っ、何だ?」
「道がわからないから、案内してもらえないだろうか?」

ときめきイベントでも何でもありません。
『赤頭巾』タケルはただ単に道に迷っただけでした。狼が脅し、人の入り込まない森の中。その中に、人がわかる道があるはずもありません。
一瞬、ドキッとした狼は深く溜息を吐き、身を翻します。

「仕方ない…下手に道に迷われて、森を荒らされたくはないからな…」


狼の道案内に、『赤頭巾』タケルはスムーズに森を行きました。
届け物の相手である『おばあさん』はよくもこんな所に住んでいるものだと、彼は感心します。
このカムイと言う狼は『おばあさん』をよく思っていないようでしたが、正しい道を教えてくれます。

(悪い奴ではない…)

ただ森を荒らされたくないのだと、『赤頭巾』タケルはそう感じました。
ただ、こちらが森を荒そうとするからいけないのです。届け物が終わって、村へ帰ったら道案内のお礼にこの事実を村人へ伝えようと、『赤頭巾』タケルは思いつきました。

「着いたぞ…」
「ありがとう、一緒に中へは入らないか?」
「断る。森を荒らす者の家を、何故尋ねなければならない」

「……森を荒らす者…?」

金色の狼・カムイの言葉に『赤頭巾』タケルが首を傾げたその時でした。
家の中からガタンと、大きな物音がしたのです。
何があったのかと『赤頭巾』タケルが勢い良くドアを開きました。





すると『おばあさん』ユダが『狩人』シンを食べようとする姿が目に映りました………。






「………何をしてるんだ?」
少々、純粋培養な『赤頭巾』タケルはふたりが何をしているのかわかりませんでした。ですが、そう尋ねられてもカムイも困ります。
俗に言う『他人の濡れ場』を解説するわけにも行きません。それよりも、カムイとしては腹の立つ2ショットでした。

「貴様等!森を荒らした挙句、こんな事を…!!恥を知れ!恥を!!」
カムイの主張は最もでした。
『おばあさん』ユダは、自分達狼の妨害をものともせず、森に住み、森で生活している以上森を荒らしている存在でした。
『狩人』シンもまた、カムイ達にとって憎い存在でした。彼の持つ猟銃は森の生き物たちを狩る凶器。そんな危険な存在を見逃すわけにはいきません。
そんなふたりが森の中の一軒家でイチャイチャイチャイチャ。
カムイの怒りも、いい加減頂点に達しました。

「ユダッ!今日こそ決着をつけてやる!!」
「カムイ!おれはお前達とは戦いたくない!!」
「今まで散々俺にコスモメナスをぶちかましてきたお前が言うな!!」

ぶっちゃけ『おばあさん』が悪いのです。
ですが、『狩人』シンとのイチャイチャを邪魔された『おばあさん』ユダはそんな正論知ったこっちゃありません。

「ああっ、止めて下さい!ふたりとも!」

『狩人』シンがふたりを止めようとしますが、ふたりには聞こえてません。多分、『おばあさん』ユダには聞こえています。ですが、状況が状況なので止める事も出来ません。

「ほら!あなたもふたりを止めてください!!」
「いや…あれは『おばあさん』が悪いんだと思うぞ?」

自然を荒らす事はいけないと先ほど思ったばかりの『赤頭巾』タケルの耳に『狩人』シンの都合なんてとどくわけがありません。

「仕方が無い…コスモメナスッ!!!」
「いきなりそれか…!!!」



カムイの当然のツッコミを無視して、『おばあさん』ユダは必殺技のコスモメナスを放ちました。
キレが悪かったため、何とか命は助かりましたがカムイも『赤頭巾』タケルはボロボロです。

『赤頭巾』タケルは怪我をしたカムイを連れて帰り、手当てをしてあげました。
最初は村にいる事に抵抗を見せましたが、『赤頭巾』タケルの真摯な言葉に心を開き、傷が治るまでここにいると言いました。

しかし、傷が癒えてもカムイが森へ帰る事はなく、『赤頭巾』タケルの側に金色の狼の姿が見えるようになりました。



めでたし、めでたし?

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索