天界的どーじんわーくす(SBSS:パンカサ&神官+シヴァ)
2007年5月6日 SS――くちゅ、くちゅと響き渡る水音。
それに加わるのは、薄衣の擦れる音のみ。
他の何も聞こえない。
「やめて…っ、くださ…んっ」
「そういう言葉は、止めて欲しそうな顔をしてから言うものですよ?カサンドラ…」
首筋に落とす口付け。
白い首筋に花弁が浮かび上がって、それすらも舐めとろうとする。
奪い取るように、激しい接吻を。
逃げられないように、その肉の薄い足に触れる。
「逃がしませんから……」
「くーっ!!萌えるーっ!!!………でも、サキ殿とネタどっ被りですよ、シヴァ殿」
「ええっ、嘘ぉ!?」
消しゴムで下書きを消していたシヴァは、出来上がった原稿を読んでいたイサドラの言葉に驚いた。
――ここは神殿の一室。イサドラの部屋だった。
高く積みあがったダンボール。
所々、墨による汚れが見える。それに、トーンのカスも。
シヴァが作業をしている机にはGペン、丸ペン、消しゴムに定規。
とてもじゃないが、洗練されたイメージのある神官の部屋ですとは紹介出来ないような部屋だった。
どうやったらそこまでぐちゃぐちゃに出来るのか、神殿の外では六聖獣と彼等に従う天使達が戦争を仕掛けてこようとしているのに、そんな部屋で何をしているかと言うと―――原稿だった。
「ど、どうしよう…もう数ページでペン入れ終わっちゃうのに!」
「サキ殿はシヴァ殿と違って、門番とかやらされそうになってますからね…まだ下書き状態なんです、そちらを直してもらえば……………ダメですね、これ以上作業が遅れられたら、締め切りが…初売りイベントに間に合わなくなってしまう…どうしたら…!」
今更気付いたよくある事態に、ふたりは焦る。
事の発端は、些細な事だった。
天界の“同人業界”は割と簡単な構造をしている。
六聖獣達で構成される王道CP3種。中でも、麒麟のユダ・玄武のシンのCPは半分以上の割合を占めていた。
王道CP3種に加え、ほそぼそと存在するマイナーCP勢力。
イサドラはそのマイナーCP勢力の中で最もメジャーな作家だった。
活動CPは大神ゼウス×麒麟のユダ、副神官長カサンドラ・神官長パンドラのリバーシブルCP。神殿のあな・神殿本店を中心に、書店売上もかなりの数を伸ばしている。
対してシヴァはそこそこに有名な、世に言う中堅サークルの身だった。
活動CPは勿論、麒麟のユダ×陽炎のシヴァ。
ふたりとも、情熱なら王道CPには負けないつもりでいた。
だが、しかし、如何せんマイナーはマイナー。自身のサークル以外、同CPを取り扱っているサークルはほぼゼロ。好きだからこそ、他人の書いた、または描いたものが読みたい。そう思っていた。
そんな時、麒麟のユダ大好きで麒麟のユダ×玄武のシン以外のユダ絡みのCPを買い漁っていたシヴァは、いつも通りイサドラのサークルスペースに赴いた。丁度その頃、同様の悩みを抱えていたイサドラと意気投合し、ふたりは『マイナーCPアンソロジー』の発行を決意した。
その規模はなかなか大きくなり、ページ数はまちまちだが、青龍のゴウ・玄武のシン・朱雀のレイ・白虎のガイ――この戦争が終わった後に四聖獣と呼ばれる事になる彼ら関係のCPを除く、マイナーCPのほとんどが大集合となるアンソロジー企画となった。
麒麟のユダ×陽炎のシヴァをイサドラが書くからと、シヴァは神官長パンドラ×副神官長カサンドラの担当を任された。
青龍のゴウ×天使サキの合同誌を条件に、サキは副神官長カサンドラ×神官長パンドラの担当を任された。
自CPの、他人の話が読めると、ふたりは意気込んで原稿に勤しんだが、戦争開始の余波を受け、主催であるイサドラがチェックし切れなかったため、ネタ被りが起こってしまった。――これは、神官という立場が閉鎖的なものであるからこそ起こったネタ被りでもある。
「シヴァ殿…描き直したり…は…」
「無理だよぉ!自分の本用の原稿だってギリギリなのに〜っ!!ユダを描くのに手なんか抜けないし!」
「ですよねぇ……シヴァ殿はいつもユダ殿ばかりに力を入れますからね…」
――一片の、ベタのはみ出しも許さない。トーンの比率は完璧、モアレなんて言語道断。それがユダにのみ適応するから、シヴァの本はたまにちょっとアレな感じに仕上がる。
「……仕方ありません、それもまた味という事で納得するしかありません…」
「良いのかなぁ…」
「良いんです!落とす事だけは!落とす事だけはしてはいけないのです!!別段、本全体のクオリティが下がるわけではありませんし、萌えるものは萌えるッ!!!!これぞ真理!!これぞファイナルアンサー!!!!…って、ああっ!!私も原稿を書き上げなければ、個人誌を落としてしまうぅぅぅッ!!」
無理矢理納得させようと、イサドラは声を荒げる。
―もう間に合わない。間に合う事が正義だ。このままでは、初売りイベントは個人誌無しという悲惨な目にあってしまう。
イサドラは机に座り、原稿の締めを書こうとその手を伸ばした。―――その時だった。
「こんな所で、何をしてらっしゃるのですか?シヴァ殿…」
「シヴァとふたりきりで、何をしているのですか?イサドラ…」
―――今まさに、シヴァが原稿に描いているそのふたりが、扉を開けた。
怖くて振り返れない。
ガタガタと震えた手でペンを握るものだから、線がぶれる。―ああ、ホワイト、ホワイト…。
向かいに座ったイサドラの顔も青ざめていた。
「か、カサンドラ殿…パンドラ、殿…っ」
得てして、こういう行為―――同人活動と言うものは、元である製作社・事務所にバレてはいけないグレーゾーン行為なのである。
それが、当の本人達にバレてしまったら。
「へえ…これはまた、ひどく厭らしい…」
シヴァの原稿を手にとったカサンドラの眉がヒクリと動く。
「ああ、本当に…こんな事が実際起こったなら、私は例の場所に落とされますね…」
同様に、パンドラの眉が釣り上がる。
原稿を取り上げられた、シヴァはあわあわと慌てふためく。イサドラも同様だ。
「これはどういう事ですか?」
「ゼウス様に知れたら…どうなるでしょうね…」
責める様な、4つの瞳がイサドラを射抜く。本来ならここでゲームオーバー。―――だが、イサドラには切り札が残っていた。
「ぜ…っ、ゼウス様もご存知の事です…!」
「はぁっ!?」
「嘘!」
イサドラの言に、パンドラとカサンドラは目を見開いた。当事者であるシヴァも同様だ。
―――あの、大神ゼウスが知っている。
これは、イサドラにとって最高のカードにして切り札だった。これ以上のカードは存在しない。
「ゼウス様はこの企画をご存知ですし、楽しみにしていらっしゃいます…!印刷代もゼウス様が大半を負担してくださいます!」
―何故、ゼウスがそんな事をするかと言うと、このアンソロジー企画、大神ゼウス×麒麟のユダのページが最多なのだ。
それどころか、普段イサドラが出している本の大半はゼウスが印刷代を負担しているし、毎回、保存用・観賞用・もしもの時の1冊と、3冊も購入している。
思わぬ真実に、イサドラ以外の3人は凍りつく。
「しかも、この企画には女神様も噛んでいらっしゃいます!!」
――女神は王道CPサークル最王手サークルだ。彼女は本来、イサドラ達とは相容れない。けれど、流星のキラ×風牙のマヤ・神官長パンドラ×陽炎のシヴァが王道でありながらマイナーなため、この2CPのために参加してくれているのだった。
この事実もまた、3人を凍りつかせ、内ひとりは内心少し心動きかけていた。
全て言い切ったイサドラは勝ち誇った顔をしていた。―――しかし。
「まあ、ゼウス様が楽しみにしていらっしゃるなら、この件にはこれ以上触れません……でも」
「ムカつく事には変わりはありませんね…ディアドラ」
「はいっ」
ふたりの表情は氷の様に冷たかった。ディアドラを呼びつけたパンドラの手が、シヴァの襟を掴む。
「へ?」
思わぬ事態に呆けていたシヴァは、ディアドラの手によって縛り上げられているイサドラの姿を見た。―――そのまま放置されたら、個人誌はまず間に合わない。
「あなたはこちらですよ…」
「え?」
「たっぷりと“お仕置き”して差し上げますよ?シヴァ殿…」
「えええええっ!?」
掴まれていたのは襟のはずが、気が付けば両脇をパンドラとカサンドラに掴まれ、イサドラの部屋から引きずられていた。
ふたりの言葉に含まれた淫猥な意味。その意味にシヴァは青ざめ、叫びあがり、イサドラの原稿が間に合わないという悲痛な叫びと重なる。
「ちょっ、パンドラ殿!カサンドラ殿!!そんなネタ的に美味しい状況を!!!ネタ!!メモ帖!!解いてくださいぃぃぃぃぃぃいいいいいっ!!!!」
―――結局、ふたり共個人誌は間に合わなかった。
END
それに加わるのは、薄衣の擦れる音のみ。
他の何も聞こえない。
「やめて…っ、くださ…んっ」
「そういう言葉は、止めて欲しそうな顔をしてから言うものですよ?カサンドラ…」
首筋に落とす口付け。
白い首筋に花弁が浮かび上がって、それすらも舐めとろうとする。
奪い取るように、激しい接吻を。
逃げられないように、その肉の薄い足に触れる。
「逃がしませんから……」
「くーっ!!萌えるーっ!!!………でも、サキ殿とネタどっ被りですよ、シヴァ殿」
「ええっ、嘘ぉ!?」
消しゴムで下書きを消していたシヴァは、出来上がった原稿を読んでいたイサドラの言葉に驚いた。
――ここは神殿の一室。イサドラの部屋だった。
高く積みあがったダンボール。
所々、墨による汚れが見える。それに、トーンのカスも。
シヴァが作業をしている机にはGペン、丸ペン、消しゴムに定規。
とてもじゃないが、洗練されたイメージのある神官の部屋ですとは紹介出来ないような部屋だった。
どうやったらそこまでぐちゃぐちゃに出来るのか、神殿の外では六聖獣と彼等に従う天使達が戦争を仕掛けてこようとしているのに、そんな部屋で何をしているかと言うと―――原稿だった。
「ど、どうしよう…もう数ページでペン入れ終わっちゃうのに!」
「サキ殿はシヴァ殿と違って、門番とかやらされそうになってますからね…まだ下書き状態なんです、そちらを直してもらえば……………ダメですね、これ以上作業が遅れられたら、締め切りが…初売りイベントに間に合わなくなってしまう…どうしたら…!」
今更気付いたよくある事態に、ふたりは焦る。
事の発端は、些細な事だった。
天界の“同人業界”は割と簡単な構造をしている。
六聖獣達で構成される王道CP3種。中でも、麒麟のユダ・玄武のシンのCPは半分以上の割合を占めていた。
王道CP3種に加え、ほそぼそと存在するマイナーCP勢力。
イサドラはそのマイナーCP勢力の中で最もメジャーな作家だった。
活動CPは大神ゼウス×麒麟のユダ、副神官長カサンドラ・神官長パンドラのリバーシブルCP。神殿のあな・神殿本店を中心に、書店売上もかなりの数を伸ばしている。
対してシヴァはそこそこに有名な、世に言う中堅サークルの身だった。
活動CPは勿論、麒麟のユダ×陽炎のシヴァ。
ふたりとも、情熱なら王道CPには負けないつもりでいた。
だが、しかし、如何せんマイナーはマイナー。自身のサークル以外、同CPを取り扱っているサークルはほぼゼロ。好きだからこそ、他人の書いた、または描いたものが読みたい。そう思っていた。
そんな時、麒麟のユダ大好きで麒麟のユダ×玄武のシン以外のユダ絡みのCPを買い漁っていたシヴァは、いつも通りイサドラのサークルスペースに赴いた。丁度その頃、同様の悩みを抱えていたイサドラと意気投合し、ふたりは『マイナーCPアンソロジー』の発行を決意した。
その規模はなかなか大きくなり、ページ数はまちまちだが、青龍のゴウ・玄武のシン・朱雀のレイ・白虎のガイ――この戦争が終わった後に四聖獣と呼ばれる事になる彼ら関係のCPを除く、マイナーCPのほとんどが大集合となるアンソロジー企画となった。
麒麟のユダ×陽炎のシヴァをイサドラが書くからと、シヴァは神官長パンドラ×副神官長カサンドラの担当を任された。
青龍のゴウ×天使サキの合同誌を条件に、サキは副神官長カサンドラ×神官長パンドラの担当を任された。
自CPの、他人の話が読めると、ふたりは意気込んで原稿に勤しんだが、戦争開始の余波を受け、主催であるイサドラがチェックし切れなかったため、ネタ被りが起こってしまった。――これは、神官という立場が閉鎖的なものであるからこそ起こったネタ被りでもある。
「シヴァ殿…描き直したり…は…」
「無理だよぉ!自分の本用の原稿だってギリギリなのに〜っ!!ユダを描くのに手なんか抜けないし!」
「ですよねぇ……シヴァ殿はいつもユダ殿ばかりに力を入れますからね…」
――一片の、ベタのはみ出しも許さない。トーンの比率は完璧、モアレなんて言語道断。それがユダにのみ適応するから、シヴァの本はたまにちょっとアレな感じに仕上がる。
「……仕方ありません、それもまた味という事で納得するしかありません…」
「良いのかなぁ…」
「良いんです!落とす事だけは!落とす事だけはしてはいけないのです!!別段、本全体のクオリティが下がるわけではありませんし、萌えるものは萌えるッ!!!!これぞ真理!!これぞファイナルアンサー!!!!…って、ああっ!!私も原稿を書き上げなければ、個人誌を落としてしまうぅぅぅッ!!」
無理矢理納得させようと、イサドラは声を荒げる。
―もう間に合わない。間に合う事が正義だ。このままでは、初売りイベントは個人誌無しという悲惨な目にあってしまう。
イサドラは机に座り、原稿の締めを書こうとその手を伸ばした。―――その時だった。
「こんな所で、何をしてらっしゃるのですか?シヴァ殿…」
「シヴァとふたりきりで、何をしているのですか?イサドラ…」
―――今まさに、シヴァが原稿に描いているそのふたりが、扉を開けた。
怖くて振り返れない。
ガタガタと震えた手でペンを握るものだから、線がぶれる。―ああ、ホワイト、ホワイト…。
向かいに座ったイサドラの顔も青ざめていた。
「か、カサンドラ殿…パンドラ、殿…っ」
得てして、こういう行為―――同人活動と言うものは、元である製作社・事務所にバレてはいけないグレーゾーン行為なのである。
それが、当の本人達にバレてしまったら。
「へえ…これはまた、ひどく厭らしい…」
シヴァの原稿を手にとったカサンドラの眉がヒクリと動く。
「ああ、本当に…こんな事が実際起こったなら、私は例の場所に落とされますね…」
同様に、パンドラの眉が釣り上がる。
原稿を取り上げられた、シヴァはあわあわと慌てふためく。イサドラも同様だ。
「これはどういう事ですか?」
「ゼウス様に知れたら…どうなるでしょうね…」
責める様な、4つの瞳がイサドラを射抜く。本来ならここでゲームオーバー。―――だが、イサドラには切り札が残っていた。
「ぜ…っ、ゼウス様もご存知の事です…!」
「はぁっ!?」
「嘘!」
イサドラの言に、パンドラとカサンドラは目を見開いた。当事者であるシヴァも同様だ。
―――あの、大神ゼウスが知っている。
これは、イサドラにとって最高のカードにして切り札だった。これ以上のカードは存在しない。
「ゼウス様はこの企画をご存知ですし、楽しみにしていらっしゃいます…!印刷代もゼウス様が大半を負担してくださいます!」
―何故、ゼウスがそんな事をするかと言うと、このアンソロジー企画、大神ゼウス×麒麟のユダのページが最多なのだ。
それどころか、普段イサドラが出している本の大半はゼウスが印刷代を負担しているし、毎回、保存用・観賞用・もしもの時の1冊と、3冊も購入している。
思わぬ真実に、イサドラ以外の3人は凍りつく。
「しかも、この企画には女神様も噛んでいらっしゃいます!!」
――女神は王道CPサークル最王手サークルだ。彼女は本来、イサドラ達とは相容れない。けれど、流星のキラ×風牙のマヤ・神官長パンドラ×陽炎のシヴァが王道でありながらマイナーなため、この2CPのために参加してくれているのだった。
この事実もまた、3人を凍りつかせ、内ひとりは内心少し心動きかけていた。
全て言い切ったイサドラは勝ち誇った顔をしていた。―――しかし。
「まあ、ゼウス様が楽しみにしていらっしゃるなら、この件にはこれ以上触れません……でも」
「ムカつく事には変わりはありませんね…ディアドラ」
「はいっ」
ふたりの表情は氷の様に冷たかった。ディアドラを呼びつけたパンドラの手が、シヴァの襟を掴む。
「へ?」
思わぬ事態に呆けていたシヴァは、ディアドラの手によって縛り上げられているイサドラの姿を見た。―――そのまま放置されたら、個人誌はまず間に合わない。
「あなたはこちらですよ…」
「え?」
「たっぷりと“お仕置き”して差し上げますよ?シヴァ殿…」
「えええええっ!?」
掴まれていたのは襟のはずが、気が付けば両脇をパンドラとカサンドラに掴まれ、イサドラの部屋から引きずられていた。
ふたりの言葉に含まれた淫猥な意味。その意味にシヴァは青ざめ、叫びあがり、イサドラの原稿が間に合わないという悲痛な叫びと重なる。
「ちょっ、パンドラ殿!カサンドラ殿!!そんなネタ的に美味しい状況を!!!ネタ!!メモ帖!!解いてくださいぃぃぃぃぃぃいいいいいっ!!!!」
―――結局、ふたり共個人誌は間に合わなかった。
END
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