※某所にアップしたのものの修正版です。
※「僕たちは恋に溺れる」(クロノ×エイミィ)
http://73676.diarynote.jp/201006240056106805/の続編です。
「ああ、だからゆっくりしてるんだね」
「まあ、ゆっくりするつもりもなかったんだが……」
時空管理局の一角で―――――具体的に言うと、食堂というかカフェエリアで過ごす男が二人。正面で向き合うのが息苦しくてはす向かいに座り合うヴェロッサとクロノは、喧騒の中一息ついていた。つい先ほどまで、はやてもここにいて、ぎゃあぎゃあ騒ぎ合っていたとは思えないほど落ち着いている。
「はやても君も休暇を取って自宅に帰るっていうのに、何か緊急の事件とか起こらないと良いね」
「縁起でもないことを言うな。それに、僕たちがいなくても他に優秀な局員はいっぱいいるさ」
そう言って、クロノはコーヒーの口をつける。ヴェロッサの冗談に微笑を浮かべている。この黙っていれば良い男も、先ほどまではやてやヴェロッサとぎゃあぎゃあ騒いでいた。
本局にたまたま仕事で来ていて、ヴェロッサたちと遭遇したクロノはこの後、管理外世界の自宅へと帰る。ヴェロッサとしては『帰る』という言葉が自然と出てくることに驚きを感じる。彼も自分もミッドチルダの人間で、本来管理外世界には不干渉のはずだが、このようにクロノの『自宅』は第97管理外世界にある。彼の義妹があちらの学校に通いたいと思い、彼の母がその願いを叶えたいと思った。勿論、クロノの母があちらの世界を気に行ったといのもあるが、どういう手を使ったのか、ハラオウン家はあちらに住まいを移している。
勿論、下宿人である彼女も。
「早く帰らなくて良いの? 愛しい婚約者が待ってるんじゃない?」
「からかうな。なの……高町二尉の御兄弟と遊ぶから、少し遅く帰ってきて…だそうだ」
「寂しい?」
「だから、からかうなと言っているというのに」
ヴェロッサは久しく直接会っていなかった友人との会話を楽しむ。映像通信でならば、何度も話しているだろうにという揚げ足取りは勘弁してほしい。そのほとんどが仕事に関してのことだ。クロノとは違い、ヴェロッサはこれからまた仕事だが、少しくらい友人としての会話をしていたって罰は当たらない。
「まさか、クロノ君にこんな早く、結婚の話が出るなんてね」
「……………一応、内緒にしていたんだが…」
「バレちゃったなら仕方ないんじゃない? あの調子じゃ、フェイト執務官、八神家のみんなにも話してるよ?」
「……シグナムはもう嬉々としてからかいにきた」
「え、嘘!」
クロノの言葉に、ヴェロッサは驚く。先ほどはやてを迎えに来て、彼女に抱きつかれていたシグナムと、クロノをからかう姿が一致しない。そう疑問をぶつけるヴェロッサに、クロノは言う。彼女はああ見えて、意外とフランクであると。気心知れた相手となると、弄りにかかる。そういう女性であると。クロノの義妹のフェイトは特に仲が良いため、弄られ放題である。
そんな他愛のない会話をしながら、視線の端にちらちらと見えるものに、ヴェロッサは意識を向ける。ピンクのリボン。ピンクのリボンがちらちらと揺れている。何故、リボンがこんなところにあるのだろうと考えると、自分が持ってきたのだと思いだす。既に食べ終え、箱はゴミ箱へと捨てられたヴェロッサ特製のケーキ。箱を包んでいたリボンが、何故かクロノの指に弄ばれている。くるくると指に巻きつけては解き、コーヒーカップの取っ手に結びつけている。
「何してるの?」
「あ、すまない………最近、リボンに触れる機会が多くて、つい」
クロノとリボン。何というミスマッチな組み合わせだ。ヴェロッサが首を傾げていると、彼がきく前にクロノが答える。エイミィに髪を結うリボンを結んでほしいとねだられ、うまくできず、練習していると。少し、顔が赤くなっているのは、どういう意味だかあえて問うまい。
「お手本、見せようか?」
「できるのか?」
「そのリボン、誰が持ってきたと思ってるのさ」
僕だよと、ヴェロッサは笑う。クロノから手遊びの種を引き離し、どこに巻こうかとキョロキョロと見渡し、良い場所があったとにやりと笑う。
クロノの腕を掴み、リボンをシュルシュルと巻きつけた。最初、ぎょっとしたクロノであったが、手元で見本を見せた方がわかりやすいだろうと言えば、納得した。よほど練習がうまくいっていなかったのか、男の腕にリボンという恥ずかしい状況に気付いていない。
ヴェロッサはバランスが悪かったとクロノの腕に巻かれたリボンを一度解き、癖がついたリボンを指で扱く。その様子をじーっと見つめながら、クロノは突然ヴェロッサに問う。
「さっきの話だが……」
「さっきって? 休暇の話? お土産なら、高町二尉のおうちのクッキーが良いなあ。前にもらった時、美味しかったから」
「その話じゃない」
高町なのは二等空尉の実家はケーキが評判の喫茶店で、喫茶翠屋の商品は友人たちの好物になっている。ヴェロッサは直接店に行ったことはないが、土産としてもらった菓子を食べている。菓子や料理を作るのが得意なヴェロッサは食べるのも嫌いではないらしい。ケーキはさすがに日持ちしないので食べられないのが残念だと、しょんぼりとするヴェロッサをクロノは覚えている。
だが、今話したい話はそんなことではない。
「………君はいつまで、自分の気持ちを告げないつもりだ?」
「はっはっはー……何で、その話を蒸し返すかな?」
「君も二十歳を過ぎた、立派な大人だ。いつまでも子どもみたいに逃げているのは、どうかと思っただけさ」
クロノの言葉にヴェロッサの頬がピクリと動く。彼は言う。いつまでも気持ちを告げられず、初恋をいつまでも大事にしているのはどうかと彼は言うのだ。これだから、昔からの友人は厄介だ。変に痛いところをついてくる。はやてみたいに、的外れのところに投げたりしない。急所一直線のデッドボールだ。
「クロノ君は僕にフラれた挙句、全治三カ月の大けが負えと言うのかい?」
「どうしてフラれるのが前提なんだ」
「好きな相手の気持ちくらいわかるよ、痛いくらいにね……」
ヴェロッサが小さなころ―――グラシア家に拾われてから、ずっとそばにいてくれた、一人の女性。出会ったころは、勿論彼女も少女だったが、近くにいる少年と少女。淡い恋心の一つや二つ、生まれてきてもおかしくはない。けれど、その恋心が双方に向かれるかといえば、そうではない。
好きな相手だからこそ、痛いほどわかる。自分に対する好意は、自分が彼女に持つものとは違うということくらい知っている。知っているからこそ、想いを告げられずにいると、クロノだって知っていた。
今の関係が壊れる恐怖を彼だって知っているのだ。だというのに―――。
「大体、そんな目で見てたなんて知れたら、僕フルボッコだよ? 一応、この顔も仕事道具なんだけど……お岩さん、だっけ? 第97管理外世界の方の怪談話の、彼女みたいな顔になったら、クロノ君はどう責任取ってくれるっていうのさ」
「何で、僕の責任になるんだ……って、ロッサ!」
「何?」
「何って、どうして僕の腕を縛りあげてるんだ!」
ピンクのリボンで手首を一つ縛られるクロノ・ハラオウン提督。特技はバインド。そんな彼が、今物理的に縛られている。
「え? クロノ君が酷いこと言うからだよぉ……ヴィンデルシャフトでボッコボコにされろとか言うから」
「誰もそんなことは言ってない!」
自分の初恋に気付かず、気付かないうちに初恋が終わっていた男が他人の初恋に口を出すからこういう目にあうのだ。初恋に関してあまり触れてほしくないと思っていることを知っているから、そのことであえて弄ろうとは思わないが。
「たまには縛られる側に回っても良いんじゃない? 違った世界が開けるかもよ?」
「開けたとしても、君相手に開きたくない!」
ごもっともだ。
クロノはすごい形相で睨みつけてくるが、両手を縛られて攻撃力はゼロだ。縛ってなければ今頃、ブレイズカノンあたりが直撃しているだろう。
「ははっ、なんか僕が君を縛りつけた挙句、いたずらしてるように見えるよね?」
「わかっているなら、早く解いてく」
自身の初恋の話から話を逸らそうと、ヴェロッサは必死だ。そんなこととは知らず、クロノはヴェロッサを睨み続けていたが、その顔は気付けば青くなっていた。何故だか知らないが、言葉も途中で止まり、まるで何か見てはいけないものを見てしまったような顔をしている。
「何をしているのかしら? ロッサ……」
優しくも、何かを思いつめたような女性の声がヴェロッサの背後から聞こえた。その声を聞いた途端、ヴェロッサもクロノ同様青ざめる。
振り返らなくもわかる、声の主の容姿。金色の髪に、大きなリボン。普段の騎士服とは違う、青い管理局の制服。そういえば今日、ヴェロッサの義姉は予言のことで本局に呼び出されていたなと、もっと前に思い出さなければならなかったことを思い出す。
そう言えば、彼女はカリムの秘書業をしていたな。
当たり前のことだというのに、何故だか思い出すのに時間がかかってしまった。あまりの衝撃に頭が働かない。青くなる顔とは反対に、頭の中は真っ白になる。
「事と次第によっては、シャッハに叱ってもらわなくてはなりませんね……?」
「いやっ、止めて! 義姉さん!!」
カリムのことを『ねえさん』なんて呼んだのは何年振りだろう。それくらいにヴェロッサは必死だった。婚約者のいる男の友人をリボンで縛っていたなんて知れたら―――間違いなくヴェロッサの恋心は死亡する。というか、ヴェロッサ本人が死亡する。
このあと、ヴェロッサがどうなったかは――――続きはあなたの心の中で。
END
※「僕たちは恋に溺れる」(クロノ×エイミィ)
http://73676.diarynote.jp/201006240056106805/の続編です。
「ああ、だからゆっくりしてるんだね」
「まあ、ゆっくりするつもりもなかったんだが……」
時空管理局の一角で―――――具体的に言うと、食堂というかカフェエリアで過ごす男が二人。正面で向き合うのが息苦しくてはす向かいに座り合うヴェロッサとクロノは、喧騒の中一息ついていた。つい先ほどまで、はやてもここにいて、ぎゃあぎゃあ騒ぎ合っていたとは思えないほど落ち着いている。
「はやても君も休暇を取って自宅に帰るっていうのに、何か緊急の事件とか起こらないと良いね」
「縁起でもないことを言うな。それに、僕たちがいなくても他に優秀な局員はいっぱいいるさ」
そう言って、クロノはコーヒーの口をつける。ヴェロッサの冗談に微笑を浮かべている。この黙っていれば良い男も、先ほどまではやてやヴェロッサとぎゃあぎゃあ騒いでいた。
本局にたまたま仕事で来ていて、ヴェロッサたちと遭遇したクロノはこの後、管理外世界の自宅へと帰る。ヴェロッサとしては『帰る』という言葉が自然と出てくることに驚きを感じる。彼も自分もミッドチルダの人間で、本来管理外世界には不干渉のはずだが、このようにクロノの『自宅』は第97管理外世界にある。彼の義妹があちらの学校に通いたいと思い、彼の母がその願いを叶えたいと思った。勿論、クロノの母があちらの世界を気に行ったといのもあるが、どういう手を使ったのか、ハラオウン家はあちらに住まいを移している。
勿論、下宿人である彼女も。
「早く帰らなくて良いの? 愛しい婚約者が待ってるんじゃない?」
「からかうな。なの……高町二尉の御兄弟と遊ぶから、少し遅く帰ってきて…だそうだ」
「寂しい?」
「だから、からかうなと言っているというのに」
ヴェロッサは久しく直接会っていなかった友人との会話を楽しむ。映像通信でならば、何度も話しているだろうにという揚げ足取りは勘弁してほしい。そのほとんどが仕事に関してのことだ。クロノとは違い、ヴェロッサはこれからまた仕事だが、少しくらい友人としての会話をしていたって罰は当たらない。
「まさか、クロノ君にこんな早く、結婚の話が出るなんてね」
「……………一応、内緒にしていたんだが…」
「バレちゃったなら仕方ないんじゃない? あの調子じゃ、フェイト執務官、八神家のみんなにも話してるよ?」
「……シグナムはもう嬉々としてからかいにきた」
「え、嘘!」
クロノの言葉に、ヴェロッサは驚く。先ほどはやてを迎えに来て、彼女に抱きつかれていたシグナムと、クロノをからかう姿が一致しない。そう疑問をぶつけるヴェロッサに、クロノは言う。彼女はああ見えて、意外とフランクであると。気心知れた相手となると、弄りにかかる。そういう女性であると。クロノの義妹のフェイトは特に仲が良いため、弄られ放題である。
そんな他愛のない会話をしながら、視線の端にちらちらと見えるものに、ヴェロッサは意識を向ける。ピンクのリボン。ピンクのリボンがちらちらと揺れている。何故、リボンがこんなところにあるのだろうと考えると、自分が持ってきたのだと思いだす。既に食べ終え、箱はゴミ箱へと捨てられたヴェロッサ特製のケーキ。箱を包んでいたリボンが、何故かクロノの指に弄ばれている。くるくると指に巻きつけては解き、コーヒーカップの取っ手に結びつけている。
「何してるの?」
「あ、すまない………最近、リボンに触れる機会が多くて、つい」
クロノとリボン。何というミスマッチな組み合わせだ。ヴェロッサが首を傾げていると、彼がきく前にクロノが答える。エイミィに髪を結うリボンを結んでほしいとねだられ、うまくできず、練習していると。少し、顔が赤くなっているのは、どういう意味だかあえて問うまい。
「お手本、見せようか?」
「できるのか?」
「そのリボン、誰が持ってきたと思ってるのさ」
僕だよと、ヴェロッサは笑う。クロノから手遊びの種を引き離し、どこに巻こうかとキョロキョロと見渡し、良い場所があったとにやりと笑う。
クロノの腕を掴み、リボンをシュルシュルと巻きつけた。最初、ぎょっとしたクロノであったが、手元で見本を見せた方がわかりやすいだろうと言えば、納得した。よほど練習がうまくいっていなかったのか、男の腕にリボンという恥ずかしい状況に気付いていない。
ヴェロッサはバランスが悪かったとクロノの腕に巻かれたリボンを一度解き、癖がついたリボンを指で扱く。その様子をじーっと見つめながら、クロノは突然ヴェロッサに問う。
「さっきの話だが……」
「さっきって? 休暇の話? お土産なら、高町二尉のおうちのクッキーが良いなあ。前にもらった時、美味しかったから」
「その話じゃない」
高町なのは二等空尉の実家はケーキが評判の喫茶店で、喫茶翠屋の商品は友人たちの好物になっている。ヴェロッサは直接店に行ったことはないが、土産としてもらった菓子を食べている。菓子や料理を作るのが得意なヴェロッサは食べるのも嫌いではないらしい。ケーキはさすがに日持ちしないので食べられないのが残念だと、しょんぼりとするヴェロッサをクロノは覚えている。
だが、今話したい話はそんなことではない。
「………君はいつまで、自分の気持ちを告げないつもりだ?」
「はっはっはー……何で、その話を蒸し返すかな?」
「君も二十歳を過ぎた、立派な大人だ。いつまでも子どもみたいに逃げているのは、どうかと思っただけさ」
クロノの言葉にヴェロッサの頬がピクリと動く。彼は言う。いつまでも気持ちを告げられず、初恋をいつまでも大事にしているのはどうかと彼は言うのだ。これだから、昔からの友人は厄介だ。変に痛いところをついてくる。はやてみたいに、的外れのところに投げたりしない。急所一直線のデッドボールだ。
「クロノ君は僕にフラれた挙句、全治三カ月の大けが負えと言うのかい?」
「どうしてフラれるのが前提なんだ」
「好きな相手の気持ちくらいわかるよ、痛いくらいにね……」
ヴェロッサが小さなころ―――グラシア家に拾われてから、ずっとそばにいてくれた、一人の女性。出会ったころは、勿論彼女も少女だったが、近くにいる少年と少女。淡い恋心の一つや二つ、生まれてきてもおかしくはない。けれど、その恋心が双方に向かれるかといえば、そうではない。
好きな相手だからこそ、痛いほどわかる。自分に対する好意は、自分が彼女に持つものとは違うということくらい知っている。知っているからこそ、想いを告げられずにいると、クロノだって知っていた。
今の関係が壊れる恐怖を彼だって知っているのだ。だというのに―――。
「大体、そんな目で見てたなんて知れたら、僕フルボッコだよ? 一応、この顔も仕事道具なんだけど……お岩さん、だっけ? 第97管理外世界の方の怪談話の、彼女みたいな顔になったら、クロノ君はどう責任取ってくれるっていうのさ」
「何で、僕の責任になるんだ……って、ロッサ!」
「何?」
「何って、どうして僕の腕を縛りあげてるんだ!」
ピンクのリボンで手首を一つ縛られるクロノ・ハラオウン提督。特技はバインド。そんな彼が、今物理的に縛られている。
「え? クロノ君が酷いこと言うからだよぉ……ヴィンデルシャフトでボッコボコにされろとか言うから」
「誰もそんなことは言ってない!」
自分の初恋に気付かず、気付かないうちに初恋が終わっていた男が他人の初恋に口を出すからこういう目にあうのだ。初恋に関してあまり触れてほしくないと思っていることを知っているから、そのことであえて弄ろうとは思わないが。
「たまには縛られる側に回っても良いんじゃない? 違った世界が開けるかもよ?」
「開けたとしても、君相手に開きたくない!」
ごもっともだ。
クロノはすごい形相で睨みつけてくるが、両手を縛られて攻撃力はゼロだ。縛ってなければ今頃、ブレイズカノンあたりが直撃しているだろう。
「ははっ、なんか僕が君を縛りつけた挙句、いたずらしてるように見えるよね?」
「わかっているなら、早く解いてく」
自身の初恋の話から話を逸らそうと、ヴェロッサは必死だ。そんなこととは知らず、クロノはヴェロッサを睨み続けていたが、その顔は気付けば青くなっていた。何故だか知らないが、言葉も途中で止まり、まるで何か見てはいけないものを見てしまったような顔をしている。
「何をしているのかしら? ロッサ……」
優しくも、何かを思いつめたような女性の声がヴェロッサの背後から聞こえた。その声を聞いた途端、ヴェロッサもクロノ同様青ざめる。
振り返らなくもわかる、声の主の容姿。金色の髪に、大きなリボン。普段の騎士服とは違う、青い管理局の制服。そういえば今日、ヴェロッサの義姉は予言のことで本局に呼び出されていたなと、もっと前に思い出さなければならなかったことを思い出す。
そう言えば、彼女はカリムの秘書業をしていたな。
当たり前のことだというのに、何故だか思い出すのに時間がかかってしまった。あまりの衝撃に頭が働かない。青くなる顔とは反対に、頭の中は真っ白になる。
「事と次第によっては、シャッハに叱ってもらわなくてはなりませんね……?」
「いやっ、止めて! 義姉さん!!」
カリムのことを『ねえさん』なんて呼んだのは何年振りだろう。それくらいにヴェロッサは必死だった。婚約者のいる男の友人をリボンで縛っていたなんて知れたら―――間違いなくヴェロッサの恋心は死亡する。というか、ヴェロッサ本人が死亡する。
このあと、ヴェロッサがどうなったかは――――続きはあなたの心の中で。
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