大学から駅までバスで行く途中、紫陽花が見えます。
友人と一緒に紫陽花ってアルカリ性と酸性の土壌で赤とか青に色変えるけど、白はなんなのさとか言ってました。

で、調べてみた。

アジサイの色素が酸性の土壌では青色が強く出て、中性・アルカリ性 の土壌では赤色が強くで出るそうです。
白は蕾らしい。

日本は青いのが多かったらしいです。
つまり、日本の土壌は酸性なのか………うーん。

「ええなぁ…」

溜め息混じりの主の声。
少しこちらの方が足が早く、追い抜いてしまったはやての呟きに、シグナムは振り返った。
「どうしたのですか？溜め息など吐いて」
いつも明るく、優しく笑っている彼女の溜め息など、めったにシグナムは聞く事はない。彼女が気付かなかっただけで、知らぬ場所では吐いていたかもしれない
が、自分達―――ヴォルケンリッターの前では、今月は食費を使いすぎた、もっと節約しなければ等、他愛ない理由でくらいなものだった。
六課の事で溜め息を吐く事は多いだろう。けれど、はやては家族の前でそんな姿を隠そうとする。
自分が辛い事は家族に隠してしまう。よくも悪くも、10年前からの彼女の癖だった。
彼女は辛い事を隠してしまうし、大体、六課の事で何かあるならば、良いなと言いながら溜め息を吐く事はないだろう。

ならば、どうしてと再び口にしようとしたシグナムよりも先に、はやては口を開いた。

「あたしも、シグナムみたいに格好良くなれたら良かったな思って」
「はあ…」
何かあったのではと思案していたこちらの予想とは違い、溜め息の意味は暗いものではなかった。
だが、これはこれでどうしたのだろうと思案してしまう。
今まで、はやてには格好良いと何度も言われてきた。シャマルほど自分の姿に頓着はしないが、主から褒められる事は誇らしくあった。
しかし、今までこの様な―――憧憬を含んでその言葉を言われた事はなかった。
不思議そうな顔をするシグナムに、はやては顔の前で手の平を振り、明るく笑う。

「シグナムって10代後半から20代前半くらいに見えるやないかぁ」
「ええ、大体それくらいに見えているらし……………それと先ほどの言葉はどういう関係なのでしょう？」
正確にはシグナムは19歳相当の見掛けをしている。
変身魔法を使えば、姿を変えられるが、基本はこの姿だ。
何故、この姿になったのかは、シグナム本人はおろか、シグナムと同じ存在であるシャマル達も知らないだろう。

「あたしも19歳になって、シグナムみたいに格好良くなれるかな思ってたんやけど…やっぱり無理やった……せめて身長くらいは追いついたら威厳がつくのになぁ」
「威厳？」
「そう！機動六課を束ねて、ガジェットだっでバッサバッサ倒します！レリックだって簡単に確保で来ます！悪者だってかかってきなさい、あたし達が倒します！ってゆう、格好良い大物イメージが欲しかったんやけど……無理やった…」

2度目の無理という言葉を口にしたはやては、オーバーリアクション気味に肩を落とし、振り上げて熱く語っていた拳を下げた。
「……私にその様なイメージをお持ちで…？」
大切な主の中での自分のイメージがうまく計れず、シグナムははやてと違い、本当に肩を落とした。
「だって、シグナムはみんなを率いて、バッサバッサ悪者を倒して、今は機動六課・ライトニング部隊の副隊長さんや…あたしはいつも家族として、最後の夜天
の主として、部隊長として、鼻高々やで？」

笑顔でそんなに熱く褒められるとは思わなかった。
はやてはシグナムを色々な意味で驚かせる。
今の言葉は、舞い上がってしまいたくなるほど嬉しい。
自然と顔が緩んでしまいそうな自分を抑え、シグナムははやてに微笑み返す。
「お褒めいただき、光栄です」
「シグナムはいつも頑張ってるから、もっと私を褒めてください！主！くらい、言ってもええよ？」
「いえ、それはちょっと…」
褒めるという行為は、相手がそれに値することをした時にはじめてその価値を持つ。
褒めてくれと強要して褒められても、嬉しくはない。
はやてもそれをわかっていて、冗談で言うところは人が悪い。

―――楽しそうに笑うはやての姿に、先ほどの心配は杞憂であって良かったと思う。
はやての歩幅に合わせて歩くと、すぐにシグナムに追いつき、ふたり並んで歩く。
長い旅の果て、彼女の元にたどり着いて、早くも10年。
守護騎士と夜天の書の長い旅路に比べれば、ほんの少しの時間だが、幸せな10年だった。
管制人格であったリインフォース?は、主を守るために消滅してしまったが――今は、リインフォース?がいる。
侵食によるはやての足の麻痺が止まって、彼女は彼女自身の足で進んでいる。
あらためて、その事実を嬉しく思った。



「そっか…うーん残念やなー」
「何が残念なのでしょう？」
隣りを歩くはやての姿を見ていたシグナムを見上げて、彼女は言葉通り心底残念そうに呟く。
本日何度目かの主の不可解な言動に、シグナムは再び首を傾げた。
「わかってはいたけど…シグナムがもっと誉めてくれって言ってくれたら、あたしもシグナムにおねだりが出来ると思ってなぁ」
「…おねだりですか？」
大切な主の願いなら、いくらでも叶えるつもりでいるのだが。
「そや……ちょっとお願いしたいことがあってなぁ…でも、この歳になってお願いするのもちょっと、っていうお願いで…」
「あなたの願いなら何なりと」
俯き、胸の前で指をモジモジとさせるはやてに、シグナムは躊躇いもなく言う。
叶えられる願いなら、叶える。
シグナムの言葉に、はやての頬に朱がかかる。

「…抱っこして欲しいんや…」
「はあ…」
「こんな歳になって、こんなお願いするのもどうかな思ったんやけど！大体、今はしてもらう必要ないし、いくらシグナムより小さい言うても昔よりは大きくなったし…！だから…聞かなかったことに…って、うわぁ！」
小さな呟きが、シグナムの耳に届いて僅かのこと。
「ちょ…シグナム！」
はやての困惑も当然である。
シグナムの腕に抱きかかえられ、世に言うお姫様抱っこをされては、流石の八神部隊長でも驚かずにいられない。
シグナムのいきなりの行動に、はやての心臓は打つ速度を上げる。
「あなたが望むなら、いつでも抱き上げます」
うろたえる主を他所に、シグナムは微笑みながらそう言った。
「このままデスクまでお連れ致します」
「ええよ！誰かに見られたら…！」
「誰かいるなら、私が気付きます…どうか、このまま」
こんな他愛ないお願いを聞かれたことでさえ恥ずかしいというのに、誰かに見られたらと考えるはやてをシグナムは力強く支える。

―――主の可愛い願いが、愛しくて。

はやてが頷くと同時に、シグナムは先に進んだ。




END